2012年5月14日月曜日

AGENT FOR TREATING SPINAL CORD INJURY


脊髄損傷治療薬剤

 本発明は脊髄損傷治療剤に関し、更に詳しくは肝細胞増殖因子(以下、HGFと略記する。)蛋白質を有効成分とする脊髄損傷治療剤に関する。さらに、本発明はHGF蛋白質を有効成分とする脱髄性疾患治療剤に関する。

 脊髄損傷(spinal cord injury:SCI)とは、交通事故や高所転落に伴う脊脱臼骨折などの外傷で、脊髄実質が損傷されることにより、損傷部以下の末梢の運動・感覚・自律神経系の麻痺を呈する病態のことである。
 現在、脊髄損傷の患者は、日本では約10万人、米国では25万人に及ぶとされており、年間日本では5千人、米国では1万人以上の患者が増加している。

 近年医療の進歩に伴い受傷後の生存率は上昇し、障害の進行を抑えるべく脊椎骨損傷の再建手術の方法も飛躍的に進歩してきた。したがって、2次的な神経症状の増悪を抑えることも成功しはじめている。さらに、リハビリテーションによる機能回復訓練技術の向上や補助器具(電動車いす等)の開発等により、患者の日常生活動作(ADL)が向上してきてはいる。しかし、根本的な脊髄損傷自体(神経損傷からの神経保護・再生)への有効な治療法がないために、自立した排尿・排便・手作業や歩行が不能な患者が大量に存在しているのが現状である。

 一方、HGFは、最初に成熟肝細胞に対する強力なマイトージェンとして同定され、1989年にその遺伝子クローニングがなされた(非特許文献1、2)。HGFは肝細胞増殖因子として発見されたが、ノックアウト/ノックインマウスの手法を含む発現および機能的解析における近年の多数の研究により、HGFは新規な神経栄養因子であることも明らかにされた(非特許文献3、4)。

 そして、特許文献1には、パーキンソン病モデルラットを用いて、HGF遺伝子のモデルラットへの作用効果を行動学的におよび組織学的に検討した実施例が示されており、HGF遺伝子の前投与により中脳黒質ドーパミンニューロンを神経毒6-OHDAから保護し、パーキンソン病モデルラットの症状を抑えたとの実験結果が示されている。また、この特許文献1では、前記実験結果に基づいて、HGF遺伝子がパーキンソン病のみならず、アルツハイマー病、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、線条体黒質変性症、脊髄性筋萎縮症、ハンチントン舞踏病、シャイ・ドレーガー症候群、シャルコー・マリー・トース病、フリードライヒ失調症、重症筋無力症、ウイリス動脈輸閉塞症、アミロイドーシス、ピック病、スモン病、皮膚筋炎・多発性筋炎、クロイツ フェルド・ヤコブ病、ベーチェット病、全身性エリテマドーデス、サルコイドーシス、結節性動脈周囲炎、後縦靭帯骨化症、広範性脊柱狭窄症、混合性結合組織病、糖尿病性末梢神経炎、虚血性脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)などの神経疾患の治療にも適用できるとし、かかる神経疾患の1つとして脊髄損傷も挙げられている。

 しかしながら、6-OHDAはカテコールアミンを合成する神経細胞(具体的にはノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン産生神経細胞)に特異的に効果をもつ特殊な人工毒で、列記されているほとんどの疾患で変性死滅するといわれる神経細胞に対して6-OHDAはそもそも毒性を示さない。したがって、6-OHDAによる神経細胞死抑制効果をもって脊髄損傷を含む上記疾患に対して効果を予測することは到底できない。また、前記特許文献1には、HGF蛋白質投与による治療効果に関する記載もない。

 さらに、非特許文献5には、ラット第10胸髄部に、HGF遺伝子を繰み込んだウイルスベクター(HGF発現ウイルスベクター)を注入したのち、同部位に胸椎圧挫損傷を作成し、その後運動機能を評価したところ、下肢運動機能の回復が認められたことが記載されている。

 しかしながら、通常のHGF遺伝子治療は蛋白質の発現量の調節が困難である、一部の遺伝子発現ベクターでは繰り返し投与の際に免疫反応を惹起する危惧がある、一部の遺伝子発現ベクターではゲノムに遺伝子を導入することになるなどの問題点が想定される。

 ところで、脊髄神経を含む有髄神経の神経線維はミエリンと呼ばれるリポタンパクの層から成る髄鞘で覆われている。髄鞘は神経線維の絶縁体のような働きをしており、有髄神経の跳躍伝導を可能にしている。この髄鞘が破壊される現象を脱髄と称するが、神経伝達の著しい遅延によって多彩な神経症状を引き起こす。これら脱髄を伴う疾患を脱髄性疾患と総称し、代表的なものとしては多発性硬化症が挙げられ、脊髄損傷の場合も通常脱髄を伴う。

 多発性硬化症は脳および脊髄の播種性脱髄斑の形成を特徴とする遅進性の中枢神経疾患で、欧米人に多く人口10万人当たり約50~100人、日本では人口10万人当たり1~5人に発症する。症状は個人差が大きく、視覚喪失,複視,眼振,構音障害,脱力,異常感覚,膀胱異常,気分変化など、様々な症状を発現し、寛解と再燃を繰り返しながら進行していく。病因として免疫学的異常が疑われているものの、いまだ解明されていない。そのため、他の脱髄性疾患と同様に根本的治療法もないのが現状である。

WO2003/045439Biochem.Biophys.Res.Commun.,122,1450-1459(1984)Nature,342,440-443(1989)Nat.Neurosci.,2,213-217(1999)Clin.Chim.Acta.,327,1-23(2003)日本整形外科学会雑誌、2005.08.25、Vol.79,No.8,pS764

 本発明の目的は、遺伝子を用いることなく、簡便な方法により脊髄損傷及び脱髄性疾患を治療することができる薬剤を提供するものである。

 本発明者らは、前記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、HGF蛋白質が、脱髄抑制効果や5HT神経再生効果など脊髄損傷治療で最も望まれている機能再生効果を有し、HGF蛋白質が脊髄損傷の治療薬剤として有用であるのみならず、脱髄性疾患の治療薬剤としても有用であることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。


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 すなわち、本発明は、
(1)HGF蛋白質を有効成分とする脊髄損傷治療剤、
(2)HGF蛋白質が、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を含む蛋白質、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質であってHGFとして作用する蛋白質、又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドである前記(1)記載の治療剤、
(3)HGF蛋白質が、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む蛋白質である前記(1)記載の治療剤、
(4)脊髄損傷部位に局所適用するための前記(1)~(3)のいずれかに記載の治療剤、
(5)髄腔内投与用注射剤の剤型である前記(4)記載の治療剤、
(6)徐放性ポンプによる髄腔内投与用注射剤の剤型である前記(4)記載の治療剤、
(7)脊髄神経の脱髄抑制剤である前記(1)~(6)のいずれかに記載の治療剤、
(8)脊髄損傷患者に有効量のHGF蛋白質を投与することを特徴とする脊髄損傷治療方法、
(9)脊髄損傷治療剤を製造するためのHGF蛋白質の使用、
(10)HGF蛋白質を有効成分とする脱髄性疾患治療剤、
(11)脱髄性疾患が多発性硬化症、ドヴィック症候群、バロー病、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、シルダー病、亜急性硬化性汎脳炎(SSPE)、進行性多病巣性白質脳症(PML)、ビンスバンガー病、低酸素脳症、橋中心髄鞘破壊症、ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎から選ばれる前記(10)記載の治療剤、
(12)HGF蛋白質が、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を含む蛋白質、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質であってHGFとして作用する蛋白質、又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドである前記(10)又は(11)記載の治療剤、
(13)HGF蛋白質が、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む蛋白質である前記(10)又は(11)記載の治療剤、
(14)疾患部位に局所適用するための前記(10)~(13)のいずれかに記載の治療剤、
(15)髄腔内投与用注射剤の剤型である前記(14)記載の治療剤、
(16)徐放性ポンプによる髄腔内投与用注射剤の剤型である前記(14)記載の治療剤、
(17)脱髄性疾患の患者に有効量のHGF蛋白質を投与することを特徴とする脱髄性疾患治療方法、および
(18)脱髄性疾患治療剤を製造するためのHGF蛋白質の使用、
に関する。

 本発明の治療剤は、脊髄損傷及び脱髄性疾患に対して極めて優れた治療効果を発揮するものである。また、本発明の治療剤は、遺伝子治療のもつ問題点がないという特長を有する。さらに、本発明の治療剤は、脊髄損傷や脱髄性疾患(たとえば、多発性硬化症)などで見られる有髄神経での脱髄を効果的に抑制することができるという特長を有する。さらにまた、本発明の治療剤は、有効成分であるHGFの供給量もしくは投与量を容易に調節することが可能であり、かつ繰り返しもしくは持続的に投与が可能であるという特長を有する。

HGF蛋白質投与群と対照群の脊髄損傷後の脊髄組織のHE染色像である。HGF蛋白質投与群と対照群の脊髄損傷後の脊髄組織のLFB染色像である。HGF蛋白質投与群と対照群の脊髄損傷後の脊髄組織の5HT免疫染色像である。HGF蛋白質投与群の脊髄損傷後の脊髄組織の5HTおよびGAP43の免疫染色像である。HGF蛋白質投与群と対照群の脊髄損傷後のBBBスコアを示す線図である。

 本発明で使用されるHGF蛋白質は公知物質であり、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる。HGF蛋白質の製造方法としては、例えばHGF蛋白質を産生する初代培養細胞や株化細胞を培養し、培養上清等から分離、精製して該HGF蛋白質を得ることができる。あるいは遺伝子工学的手法によりHGF蛋白質をコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に挿入して形質転換し、この形質転換体の培養上清から目的とする組換えHGF蛋白質を得ることもできる。(例えば、特開平5-111382号公報、Biochem.Biophys.Res.Commun.1989年、第163巻,p.967等を参照)。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵� �又は動物細胞等を用いることができる。このようにして得られたHGF蛋白質は、天然型HGF蛋白質と実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数個〔例えば、数個(例えば1~8個;以下同様である。)〕のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されていてもよく、また同様に糖鎖が置換、欠失若しくは付加されていてもよい。そのようなHGF蛋白質として、下記する5アミノ酸欠損型HGF蛋白質を挙げることができる。ここで、アミノ酸配列について、「1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加」とは、遺伝子工学的手法、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、又は天然に生じうる程度の数(1~数個)が、欠失、置換若しくは付加等されていることを意味する。糖鎖が置換、欠失若しくは付加したHGF蛋� �質とは、例えば天然のHGF蛋白質に付加している糖鎖を酵素等で処理し糖鎖を欠損させたHGF蛋白質、また糖鎖が付加しない様に糖鎖付加部位のアミノ酸配列に変異が施されたもの、あるいは天然の糖鎖付加部位とは異なる部位に糖鎖が付加するようアミノ酸配列に変異が施されたもの等をいう。

 さらに、HGF蛋白質のアミノ酸配列と少なくとも約80%以上の相同性を有する蛋白質、好ましくは約90%以上の相同性を有する蛋白質、より好ましくは約95%以上の相同性を有する蛋白質であって、かつHGFとして作用する蛋白質も含まれる。上記アミノ酸配列について「相同」とは、蛋白質の一次構造を比較し、配列間において各々の配列を構成するアミノ酸残基の一致の程度の意味である。


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 上記HGF蛋白質としては、例えば配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。配列番号2で表されるHGF蛋白質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の161~165番目の5個のアミノ酸残基が欠失している5アミノ酸欠損型HGF蛋白質である。配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質は、両者ともヒト由来の天然HGF蛋白質であって、HGFとしてのマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する。
 配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む蛋白質としては、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と少なくとも約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む蛋白質、例えば配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列から、1~数個のアミノ酸残基を挿入又は欠失させたアミノ酸配列、1~数個のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基と置換させたアミノ酸配列又は1~数個のアミノ酸残基が修飾されたアミノ酸配列等を含む蛋白質であってHGFとして作用する蛋白質であることが好ましい。挿入されるアミノ酸又は置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。非天然アミノ酸は、アミノ基とカルボキシ ル基を有する限りどのような化合物でもよいが、例えばγ-アミノ酪酸等が挙げられる。
 これらの蛋白質は、単独であっても、これらの混合蛋白質であってもよい。

 本発明に用いられるHGF蛋白質は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO - )、アミド(-CONH 2 )又はエステル(-COOR)のいずれであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピルもしくはn-ブチル等のC 1-6 アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル等のC 3-8 シクロアルキル基、例えば、フェニル、α-ナフチル等のC 6-12 アリール基、例えば、ベンジル、フェネチル等のフェニル-C 1-2 アルキル基もしくはα-ナフチルメチル等のα-ナフチル-C 1-2 アルキル基等のC 7-14 アラルキル基のほか、ピバロイルオキシメチル基等が用いられる。本発明で用いられるHGF蛋白質が、C末端以外にカルボキシル基(又はカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化又はエステル化されているものも本発明におけるHGF蛋白質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステル等が用いられる。さらに、本発明に用いられるHGF蛋白質には、上記した蛋白質において、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC 2-6 アルカノイル基等のC 1-6 アシル基等)で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の官能基(例えば、-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基等)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC 2-6 アルカノイル基等のC 1-6 アシル基等)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質等の複合蛋白質等も含まれる。

 本発明で用いるHGF蛋白質は、その部分ペプチド(以下、部分ペプチドと略記する場合がある。)の形態であってもよく、そのような部分ペプチドとしては、上記したHGF蛋白質の部分ペプチドであってHGFとして作用を有するものであればいずれのものであってもよい。本発明において、部分ペプチドのアミノ酸の数は、上記したHGF蛋白質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも約20個以上、好ましくは約50個以上、より好ましくは約100個以上のアミノ酸配列を含有するペプチド等が好ましい。本発明の部分ペプチドにおいては、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO - )、アミド(-CONH 2 )又はエステル(-COOR)のいずれであってもよい。さらに、部分ペプチドには、上記したHGF蛋白質と同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の官能基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチド等の複合ペプチド等も含まれる。

 本発明に用いられるHGF蛋白質(部分ペプチドの形態を含む)の塩としては、酸又は塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩等が挙げられる。

 本発明に用いられるHGF蛋白質が部分ペプチドの形態である場合、該部分ペプチドは、公知のペプチドの合成法に従って、あるいはHGF蛋白質を適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれでも良い。すなわち、HGF蛋白質を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は、保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、M.Bodanszky及びM.A.Ondetti、ペプチド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience Publishers,New York(1966年)、Schroeder及びLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide), Academic Press,NewYork(1965年)等に記載された方法が挙げられる� �反応後は通常の精製方法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶等を組み合わせてHGF蛋白質の部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。

 なお、本発明で用いられるHGF蛋白質は、ヒトに適用する場合は前記したヒト由来のものが好適に用いられるが、ヒト以外の哺乳動物に由来するHGF蛋白質であってもよい。たとえば、ラット由来のHGF蛋白質は配列番号3で表される。


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 本発明の脱髄性疾患治療剤は、脱髄を伴う神経疾患全般に用いることができる。具体的には、多発性硬化症、ドヴィック症候群、バロー病、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、シルダー病、亜急性硬化性汎脳炎 (SSPE)、進行性多病巣性白質脳症(PML)、ビンスバンガー病、低酸素脳症、橋中心髄鞘破壊症、ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎などが挙げられ、脱髄を伴う脊髄損傷も包含される。

 本発明の治療剤、すなわち脊髄損傷治療剤および脱髄性疾患治療剤は、ヒトのほか、ヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコなど)にも適用できる。

 本発明の治療剤(脊髄損傷治療剤又は脱髄性疾患治療剤)を患者又は患畜に投与する場合、種々の製剤形態、例えば液剤、固形剤等をとりうるが、一般的にはHGF蛋白質のみ又はそれと慣用の担体と共に注射剤、噴射剤、徐放性製剤(例えば、デポ剤)などとされる。上記注射剤は、水性注射剤又は油性注射剤のいずれでもよい。水性注射剤とする場合、公知の方法に従って、例えば、水性溶媒(注射用水、精製水等)に、医薬上許容される添加剤、例えば等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコール等)、緩衝剤(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロ� �酸緩衝液等)、保存剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等)、増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等)、安定化剤(亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン等)又はpH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等)などを適宜添加した溶液に、HGF蛋白質を溶解した後、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより� ��製することができる。また適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)又は非イオン界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50等)などを使用してもよい。油性注射剤とする場合、油性溶媒としては、例えば、ゴマ油又は大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル又はベンジルアルコール等を使用してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプル又はバイアルに充填される。注射剤中のHGF蛋白質含量は、通常約0.0002~0.2w/v%程度、好ましくは約0.001~0.1w/v%程度に調整される。なお、注射剤等の液状製剤は、凍結保存又は凍結乾燥等により水分を除去して保存するのが望ましい。凍結乾燥製剤は、用時に注射用蒸留水等� ��加え、再溶解して使用される。

 噴霧剤も製剤上の常套手段によって調製することができる。噴霧剤として製造する場合、その添加剤としては、一般に吸入用製剤に使用される添加剤であればいずれのものであってもよく、例えば、噴射剤の他、上記した溶剤、保存剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤などが用いられる。噴射剤としては、液化ガス噴射剤又は圧縮ガス等が用いられる。液化ガス噴射剤としては、例えば、フッ化炭化水素(HCFC22、HCFC-123、HCFC-134a、HCFC142等の代替フロン類等)、液化石油、ジメチルエーテル等が挙げられる。圧縮ガスとしては、例えば、可溶性ガス(炭酸ガス、亜酸化窒素ガス等)又は不溶性ガス(窒素ガス等)などが挙げられる。

 また、本発明で用いられるHGF蛋白質は、生体分解性高分子と共に、徐放性製剤(例えばデポ剤)とすることもできる。HGF蛋白質は特にデポ剤とすることにより、投薬回数の低減、作用の持続性及び副作用の軽減等の効果が期待できる。該徐放性製剤は公知の方法に従って製造することができる。本徐放性製剤に使用される生体内分解性高分子は、公知の生体内分解性高分子のなかから適宜選択できるが、例えばデンプン、デキストラン又はキトサン等の多糖類、コラーゲン又はゼラチン等の蛋白質、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリロイシン、ポリアラニン又はポリメチオニン等のポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸重合体又は共重合体、ポリカプロラクトン、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、� �リ酸無水物又はフマル酸・ポリエチレングリコール・ビニルピロリドン共重合体等のポリエステル、ポリオルソエステル又はポリメチル-α-シアノアクリル酸等のポリアルキルシアノアクリル酸、ポリエチレンカーボネート又はポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート等である。好ましくはポリエステル、更に好ましくはポリ乳酸又は乳酸・グリコール酸重合体又は共重合体である。ポリ乳酸-グリコール酸重合体又は共重合体を使用する場合、その組成比(乳酸/グリコール酸)(モル%)は徐放期間によって異なるが、例えば徐放期間が約2週間ないし3カ月、好ましくは約2週間ないし1カ月の場合には、約100/0ないし50/50である。該ポリ乳酸-グリコール酸重合体又は共重合体の重量平均分子量は、一般的には約5,000ないし20,000である。ポ� �乳酸-グリコール酸共重合体は、公知の製造法、例えば特開昭61-28521号公報に記載の製造法に従って製造できる。生体分解性高分子とHGF蛋白質の配合比率は特に限定はないが、例えば生体分解性高分子に対して、HGF蛋白質が約0.01~30w/w%程度である。


 投与方法としては、注射剤もしくは噴霧剤を直接脊髄損傷あるいは脱髄性疾患のある組織に直接注射(たとえば、髄腔内(intrathecal)投与、徐放性ポンプによる髄腔内持続投与など)もしくは噴霧するか、あるいは徐放性製剤(デポ剤)を脊髄損傷あるいは脱髄性疾患のある組織に近い部位に埋め込むのが好ましい。また、投与量は、剤形、疾患の程度又は年齢等に応じて適宜選択されるが、通常、1回当たり1μg~500mg、好ましくは10μg~50mgである。また、投与回数も剤形、疾患の程度又は年齢等に応じて適宜選択され、1回投与とするか、ある間隔をおいて持続投与とすることもできる。持続投与の場合、投与間隔は1日1回から数ヶ月に1回でよく、例えば、徐放性製剤(デポ剤)による投与や徐放性ポンプ(たとえば、浸透圧ポンプ)による局所(たとえば 髄腔内)持続投与の場合は、数週間~数ヶ月に1回でもよい。この様な持続投与は、HGF蛋白質が長期にわたり徐々に脊髄損傷又は脱髄性疾患の部位に放出されるため、HGF作用が長期にわたり発揮されて、より良好な治療効果が得られるという利点がある他、投与回数が少ないため、患者への負担が軽減されるという利点もある。また、必要に応じて1度設置した皮下の浸透圧ポンプにHGF蛋白質を追加投与可能な点も利点といえる。なお、投与方法は、前記のとおり局所投与が望ましいが、筋肉内投与、皮下投与、点滴投与などでも可能である。

 以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、以下の実施例において使用したHGF蛋白質は5残基欠失型リコンビナントヒトHGF蛋白質(配列番号2)を用いた。

 [実施例1]
 (脊髄損傷動物の作製およびHGF蛋白質の投与)
 まず、無菌的に浸透圧ポンプ(Osmotic Pump)を準備した。Alzetミニオスモティックポンプ(ALZA Corporation製、Model2002)にHGF蛋白質(濃度1mg/mL、PBSに溶解)又はPBS(対照)を注入した。ポンプ吐出部には、HGF蛋白質又はPBSで内腔を満たした内径0.3mm-外径0.7mmのシリコンチューブ(株式会社イマムラ製)を連結し、連結部にはさらに内径1.0mm-外径2.0mmのシリコンチューブ(株式会社イマムラ製)をかぶせ、37℃で12時間インキュベートした後、実験に供した。
 成体雌性SDラット(週齢約10週から12週:体重約250g)を14%抱水クロラールの腹腔内投与により麻酔し、第10胸椎および第12胸椎の椎弓を除去した後、浸透圧ポンプ(HGF蛋白質溶液を上記方法で予め充填したもの)を右側脊背側皮下に留置し、カテーテルチューブを皮下から筋層を通し、第12胸椎椎弓まで誘導した。次いで第10胸髄にIHインパクター(Precision Systems製)を用いて200kDyneの圧挫損傷を作製し、その後第12胸髄の硬膜とくも膜を頭尻側方向にスプリットし、カテーテルチューブをくも膜下腔に挿入し、カテーテルの先を損傷脊髄直上まで進めた。カテーテルは外科用接着剤アロンアルファA「三共」(三京株式会社製)を用い筋層の上下で癒着させ、十分乾燥した後に筋層と皮膚を縫合して手術を完了した。
 術後(圧挫損傷後)、この操作によりHGF蛋白質溶液を2週間にわたり髄腔内投与した(HGF蛋白質の投与量:200μg/2週)。なお、対照群にはPBSのみを投与した。

 [実施例2]
(組織解析および結果)
 術後一定期間後、ラットを14%抱水クロラールの腹腔内投与により深麻酔し、次いでPBS、引き続き4%パラホルムアルデヒド/PBSで左心室より灌流を行った。脊髄断片を取り出し、4%パラホルムアルデヒド/PBSで24時間、4℃で後固定した。組織サンプルを10%シュクロース/PBS溶液、次いで30%シュクロース/PBS溶液にそれぞれ24時間4℃で浸漬し、OCTコンパウンド(サクラファインテクニカル社)中に包埋した。包埋組織を液体窒素中で直ちに凍結し、20μmの凍結切片を作成した。次いで切片をヘマトキシリンおよびエオシン(HE)で染色し、組織検査を行った。その結果、図1に示すように、HGF蛋白質投与群は対照群に較べて、運動神経の変性・細胞死に起因する空洞形成が顕著に抑制されていることから、圧坐による脊髄変性が抑制されていることが示された 。

 [実施例3]
(髄鞘染色および結果)
 実施例2記載の方法で作成した切片を95%エタノール処理した後、ルクソール・ファスト・ブルー溶液で60℃、2時間インキュベートし、インキュベーターから取り出した後室温となるまで放置し、95%エタノールおよび蒸留水で洗浄した。次に、炭酸リチウム溶液、70%エタノールによる分別および蒸留水による洗浄の操作を適当なコントラストが得られるまで繰り返した後、切片を脱水・封入し、髄鞘の観察を行った。図2に示すように、HGF蛋白質投与群は対照群に較べてLFB陽性の髄鞘面積が大きく、脊髄損傷による脱髄が抑制されていることが示された。

 [実施例4]
(免疫組織化学解析および結果)
 実施例2記載の方法で作成した切片をポリクローナル抗5HT抗体(1:100希釈)およびポリクローナル抗GAP43抗体(1:1000希釈)で染色した。すなわち、5%ヤギ血清および0.1%トリトンX-100を含むPBSで室温1時間ブロッキングを行った後、前記抗体溶液で4℃、一晩インキュベートした。この切片をPBSで洗浄後、Alexa488(緑)およびAlexa546(赤)(1:1000希釈)で蛍光標識した2次抗体で室温1時間インキュベートして、PBSで洗浄後、スライドに封入し、傾向顕微鏡にて5HT陽性神経線維およびGAP43陽性神経線維を観察した。その結果、図3に示すように、HGF蛋白質投与群は対照群に比べて、損傷部より4mm尾側において5HT陽性神経線維が有意に多く認められた。また、図4に示すように、5HT陽性シグナルとGAP43陽性シグナルの局在が一致していた。5HT陽性神経線維は脊髄損傷後の運� ��機能を担っていること、GAP43は成体においては再生神経線維にのみ発現していることから、HGF蛋白質の投与によって運動機能に直結する神経線維の再生が促進されることが示された。

 [実施例5]
(運動機能評価および結果)
 BBB(Basso-Beattie-Bresnahan)スコアを用いて、後肢運動機能評価を術後6週まで行った。その結果は図5のとおりである。
 図5から分かるように、HGF蛋白質群は脊髄損傷4日後から機能回復が観察され、5週から対照群に比べて有意に機能回復効果が認められた(p<0.05)。



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