【1】脳波P300の異常
図:分裂病患者と健常者の刺激入力後の脳波の変動
分裂病の脳ではP300の振幅が小さく、緩和時間が長い。
これは分裂病では認知・反応態度の形成能力に障害があることを示している
脳に音などの刺激を加えてから300ミリ秒後に現れるプラスの脳波をP300と呼ぶ。
これは、刺激に対し態度を形成したり、構えの変更を行ったり脳内の情報処理に伴う電圧の上昇と考えられている。
分裂病の脳では、このP300が健常者に比べて、振幅が小さく、さらに緩和時間が長いという統計的報告がある。
また、健常脳では刺激を繰り返すうちにこの振幅は次第に小さくなり、刺激に対する慣れを表現するが、分裂病の脳ではこの慣れの現象が観測されにくいという報告がある。
この観察事実から分裂病の脳では以下のような認知行動的な障害があると推測できる。
・分裂病では情報の入力にたいし円滑に態度形成したり、構えを変更したりする機能が低下している。
・情� ��処理が機敏に行われず前後の情報が干渉して混乱しやすい。
・刺激になれにくく、常に環境の変化に過度な緊張反応を示す。
・覚醒度・緊張度は高いにもかかわらず十分な認知・態度形成ができず注意力の障害がある。
・すなわちコスト/パーフォーマンスを考えるとより多くのエネルギーを消費しているにもかかわらず効果ある情報処理ができていない。
・したがって疲労しやすい。
実際、分裂病患者ではGO・NOGOテスト(白上げて赤下げて・・や あっちむいてホイのような構えの変更のテスト)の成績不良を示す。
生物学的には前頭葉のドーパミンD1受容体と前部帯状回のドーパミンD2受容体の結合能の低下が観察されており、自発的な動作形成能力あるいは構えの形成・変更能力に障害があ� �ことが暗示されている。
またこの脳波異常は、前頭葉の神経集団の同期的で組織的な活動の低下を示しており、実際、CTスキャンなどの観察では分裂病の脳では作業遂行時などに本来起こるべき作業部位の活性化が十分生じていない。とくに前頭連合野でのワーキングメモリーの活性化が生じておらず短期作業記憶、注意持続能力に障害があることが示唆されている。
遅延反応検査などの短期記憶によって情報を保持し時間連結によって作業する課題では、分裂病患者は優位にその成績の不良を示す。
(遅延反応検査の代表はウイスコンシン・カード分類テストなどを言う。例えて説明すれば次のような規則性を見出すテストである。
1、3、6、10、?、17、19、21、?、・・・
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これは時間的に変化する事象から規則性を予測し"?"を推測するテストで、その最中に規則の変更が行われ、過去の規則性からルールの変更を推測するテストである。これを口頭などで数値を暗記しながら遂行する。従って、即時記憶と構えの変更能力を検査することができる。
注意すべきはこれがペーパーテストのようなIQ検査では著しい成績不良は示さず、口頭などでの動的な知能が必要とされる場合、成績は不良となることである。
また、光や僅かな音などの撹乱刺激で成績は容易に悪化する。)
したがって、情報を短期記憶して統合し前後関係を把握する能力、よって、正しく論理的に連想し思考する能力に障害があると推 測できる。
これは連合障害(連想弛緩)という認知障害(思考力障害)を機能的に説明したものに他ならない。まとめれば、分裂病の脳は、情報の入力に際しての神経集団の同期的な自己活性が不足しており、このため情報を次々累積し時間的に結合して前後関係を把握し、これをもとに反応態度を手順化して外界の変化に適応した態度形成・構えの変更を形成する能力が障害されている。
【2】眼球運動障害
図:分裂病患者と健常者の眼球運動(注視点)の軌跡
分裂病患者では注視点の数が少なく、また幅がせまい。
これは、注意能力の障害を示しており、その障害部位が前頭葉に存在することを暗示している。
分裂病患者と健常者に静止図形を注視するように求めた検査では、分裂病患者は健常者にくらべ注視点の数が少なく、すなわち注視点の移動変更の頻度が少なく、さらに注視点の分布する幅が小さい。また、移動する標的を追視する検査では滑らかな視線の変更が生じない。
これらは、分裂病患者においては眼球運動の硬さが存在することを表している。これは別の表現をすれば分裂病患者は目標を視てはいるが、よくは見えていない(認知的に把握していない)ことを示唆しており、注意集中力の障害が存在することを暗示している。
眼球運動を司るのは前頭葉であるが、やはりこの障害も分裂病の脳では前頭葉機能に障害が存在していることを暗示しており、その硬さぎこちなさは同調能力、つまり、� �めらかに時間変化してゆく動作形成能力の障害を示している。
また眼球追視能力の障害は、連続的な構えの変更機能に障害があることを示唆している。
これは動作障害と注意集中障害を同時に示しているとともに、脳が外界の情報に同調しにくく、脳内の状態が環境と関係が希薄な状態になりやすいことを暗示している(即時的な交流・反応能力の障害)。
この障害は、患者だけでなくその近親者にも見られやすい障害で、この障害の遺伝的な関与も示唆している。
またこの眼球運動障害は分裂病を特定する様々な方法の中で最も同定率が良好な指標的な障害でもある。
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【3】ワーキングメモリーと遅延反応検査( 短期作業記憶検査 )
遅延反応検査とは即時的な短期記憶の検査のことである。
例えば、5ケタほどの数字を聞き取りで暗記し、その後に簡単な作業や計算問題を行ったあとに暗記した数字列を復唱させるもの。
時には、暗記した数字列を逆順で復唱させる。分裂病患者はこの検査において統計的に有意な成績不良を示す。
この遅延記憶機能は前頭葉連合野(認知連合野)のワーキングメモリー(作業記憶部位)によって担われていることが、猿の研究からわかっている。そして、ワーキングメモリーの充分な活性は、ドーパミンとノルアドレナリンの充分な伝達によって生じる。これは猿を用いた研究において、ドーパミンD1受容体 とノルアドレナリンβ受容体の阻害薬を投与することでワーキングメモリーの賦活が充分生じなくなり、遅延反応課題の成績が著しく悪化することで証明されている。
PETなどCTスキャンを用いた検査では、分裂病患者の脳では、前頭葉連合野のワーキングメモリーの部位が課題遂行時に充分賦活しないことが知られている。ことに運動性言語野の周辺にある左側前頭葉連合野で充分な賦活が生じないことが分かっている。
(これは上記のP300の躍動性の欠如とも整合するものである)
また、言語流暢検査でも分裂病患者は低い成績を示す。言語流暢検査とは「"か"の付く言葉を30秒間に可能な限り沢山言って下さい」という検査である。遅延応答障害でも特に言語や数値のような抽象的な情報においてワー� ��ングメモリーを媒介した時間結合能力に障害があることを暗示している。連想能力(特に複雑な複合を必要とする言語的連想能力)やそれを可能にさせる想起能力に問題があると考えられる。
分裂病の脳では論理や高次の知的活動を司る左前頭連合野の賦活が自動的に起こりにくいことを多くの認知脳科学研究が示唆している。
この左前頭連合野での時間結合機能の障害が分裂病の基礎障害である連合障害(連合弛緩=分裂障害)である。
【4】前頭葉の低活性、特に左前頭葉の低活性
上に示したとおり分裂病患者は脳機能的に左前頭葉の機能に障害を持っている。それは認知行動科学的に外部から観察されるとともに、PETやMRIなどのCTスキャンを用いた血流等の脳生理学的な観測からも裏付けられる。
分裂病の脳では前頭葉が低活性の傾向にあり、特に精神的作業の遂行時に通常見られる左前頭葉の十分な賦活が生じない傾向があることは上に述べたとおりである。
【5】ドーパミン受容体の異常
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(1)前頭葉D1受容体の結合能低下
前頭葉の活性、とくにワーキングメモリーの活性はD1受容体によって伝達されるドーパミンの抑制作用による前頭葉のコントラスト強化機能によって行われることが猿の実験からわかっている(久保田:京都大学、澤口:北海道大学など)。
分裂病の脳では、この前頭葉のドーパミンD1受容体の結合能が低下していることが報告されている。これは、ドーパミンの伝達過少による萎縮現象であり、ドーパミン過剰による下方修正(受容体減少)ではない。このD1結合能の低さは陰性症状の強さと比例する(大久保:東京医科歯科大、須原:放射能医療総合研究所など)。
SDA(セロトニン・ドパミン 遮断剤)はドーパミンD1機能を抑制するセロトニン受容体を遮断して、認知障害(遅延反応障害など)と陰性症状を改善する効果が期待されている。
(2)前部帯状回のD2受容体の結合能低下
前部帯状回は意欲と関係し、前頭葉と大脳辺縁系(情動回路)をつなぐインターフェースでこれと隣接する運動野の帯状回皮質は自発的運動の発現に関与する。
この部位にはドーパミンのD2受容体が存在し抑制性のGABA神経とつながっている。したがって、ドーパミンの抑制作用によってこのGABA抑制神経に繋がる神経細胞が脱抑制されることで意欲的な自発動作が発動されると考えられる。
分裂病の脳では、この部位のドーパミン受容体の結合能が低下していることが報告されている。こ� �もドーパミン伝達不足による萎縮現象である。この結合能の低さは陽性症状が顕著な患者の脳で統計的に著しい(須原:放射線医療総合研究所)。
従って、分裂病の脳では、自発性・情意性と関係するこの部位が適切に作動していないことを示唆している。
※ドーパミンの伝達不足についてはCOMT(ドーパミンなどのアミン解体酵素)遺伝子の異常が報告されている。(ワインバーガー、イーガンなど:米国国立精神衛生研究所)〜否定的な追試も報告されている。
(3)大脳基底核でのD2受容体の増加
分裂病の脳では線条体などの大脳基底核においてドーパミンD2受容体の数が増加しているという報告がある(否定的な報告もある)。
大脳基底核の出 力部は感覚の入力ボリュームを司る視床をGABA神経で抑制している。ストレスが加わり、これが累積されると基底核に対しドーパミンが投射されるが、基底核のドーパミンD2受容体が増加しているとドーパミンの伝達過剰の状態となり過度に基底核を抑制してしまい、視床のボリュームを増大させて知覚過敏の状態を結果する。
当初の前頭葉ドーパミン伝達不足とストレス入力後の基底核ドーパミン過剰をあわせて考えると、分裂病では弱ストレスでは反応過少、一方強ストレスが加わると過敏になると想像できる。
(4)海馬でのD2、D4受容体の増加
分裂病の脳では海馬のドーパミンのD2およびD4受容体の数が増加しているという報告がある。
海馬は記憶・連想に関係し、情動の中枢である扁桃核と隣接し密接な配線でつながっている。ストレスがたまり、あるいは大脳が疲弊してグルタミン酸神経によるドーパミン抑制が開放されるとこの部位のドーパミン伝達が過剰になる。
この部位のドーパミン神経はGABA抑制神経に接� ��しているので、この部分のドーパミン過剰はこの部位を興奮させる。扁桃核を電気刺激すると不安.恐怖感が生じることが動物実験で明らかにされている。大脳辺縁系の過剰興奮は対象のない自生的な不安恐怖(妄想気分など)と記憶連想の混乱(自生思考、思考の洪水など)を導くと想像できる。
もし、海馬が長期記憶を呼び出す連想バッファ機能を有しているのであれば、強いストレス入力や前頭葉の疲弊状態によってドーパミンの脱抑制による海馬の興奮が生じ、連想の洪水が生じると想像できる。連想を秩序化し選択的にコントロールする前頭葉が機能不全の状態にあれば、その連想の洪水は自生的なものとなると考えることができる(自生思考、思考促迫、思考の洪水)。
また、側頭葉も低活性になり秩序化� ��力を低下させていれば、海馬と側頭葉の聴覚野が干渉・混線した音声感覚を伴った自生連想・知覚が生じることも考えられる。
【6】補足〜Fmθ波の異常
分裂病ではないが、内向性格者はFm(前頭葉)という脳波のθ波が出づらいことがわかっている。
θ波はうとうと状態の時に現れる脳波だが、外向性格者は作業時にもこのθ波が周期的に発生し前頭葉の興奮を適宜クールダウンしていると想像できる。
逆に分裂病の脳では興奮時にβ波が過剰に現れ脳がクールダウンされずにオーバーヒートの状態になりやすいことが指摘されている。Fmθ波がドーパミンD1による抑制作用によるものだと考えれば、分裂病の脳は容易に前頭葉がオーバーヒートし混乱しやすく、副次的に基底核や大脳辺縁系のドーパミン過剰を誘発しやすい構造を持っており、それゆえに燃費が悪く疲労しやすくて注意集 中が持続困難であると想像できる。
実際、p300波の異常のところで述べたように、分裂病脳では刺激の反復によって波の振幅の抑制がおこらず刺激になれにくい特性を示している。
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